腸管出血性大腸菌感染症の基礎知識と予防対策

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)感染症は、Vero毒素(Vero toxin:VTまたはShiga toxin:Stx)を産生する特定の大腸菌が原因で引き起こされる感染症です。主な症状としては、腹痛、水様性下痢、血便などが挙げられ、感染によっては溶血性尿毒症症候群(HUS)という深刻な合併症が発症する可能性もあります。このHUSは、時には死亡や腎機能障害、神経障害といった後遺症を伴うことがあり、脳症を引き起こすケースも報告されています。

感染経路と主な感染源

EHECは牛などの家畜が健康な状態で保菌していることが多く、家畜の肉処理の過程で食材や調理器具が汚染されることがあります。感染はこれらの汚染された食品や道具により経口的に広がります。特に食肉の生食や加熱不足が原因となることが多く、感染が確認された食品には、牛肉や生レバー、ハンバーグ、サラダなどが含まれます。また、保育園や福祉施設では感染者からの接触感染も起こりやすく、日常的な衛生対策が求められています。

感染症法による位置づけ

EHEC感染症は感染症法により「三類感染症」に指定され、診断を下した医師には速やかに最寄りの保健所への届け出が義務付けられています。毎年3000件から4000件が報告されており、例年夏季に感染者数のピークが見られます。2024年は第41週時点で2,985件の累積報告があり、これは過去5年間で2番目に多い件数となっています。特に感染地域として報告例が多いのは東京都、大阪府、群馬県などです。また、国外では韓国での感染が最も多く、2024年には143例が報告されています。

感染予防のための注意

EHECの感染予防には、食肉の徹底した加熱が欠かせません。食品の中心温度が75℃で1分以上の加熱を行うことで、EHECの死滅が確認されています。生肉や加熱が不十分な肉を口にしないこと、特に調理器具は生肉用と調理済みで使い分けることが必要です。また、外出先や旅行先での生肉料理は控えるようにしましょう。韓国などでは生食肉が提供されることが多く報告されているため、特に注意が必要です。

集団感染予防の重要性

保育施設や福祉施設での集団感染は、家庭での感染予防と同様に重要です。施設内では、オムツ交換時の手洗いや消毒、食事前の手洗い指導が徹底されるべきです。また、低年齢児のミニプール使用の際には、水や器具の消毒が必要です。過去には動物とのふれあいを通じて感染が推定される事例もあり、動物と接触した後は徹底した手洗いが推奨されています。

今後の対策

腸管出血性大腸菌感染症は、家庭や施設だけでなく、海外での感染リスクにも注意が必要です。特に、夏季にかけては感染の報告数が増加する傾向があり、食中毒予防のための啓発活動が求められます。

出典:国立感染症研究所ホームページ(https://www.niid.go.jp/niid/ja/)