ピロリ菌(Helicobacter pylori):基礎知識・胃がんとの関係・検査・治療

衛生関連情報

ピロリ菌は、胃の中で長く住みつくことがある細菌で、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍の発症に関与し、胃がんの重要なリスク要因として知られています。本記事では、ピロリ菌の基礎から検査・治療、受診前の留意点までを整理します。個別の診断や治療は必ず医師にご相談ください。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、強い胃酸の環境でも生きられるらせん状の細菌です。感染すると多くの方で慢性胃炎が持続し、胃粘膜がダメージを受けやすい状態になります。結果として、胃・十二指腸潰瘍の再発、胃MALTリンパ腫など一部疾患の発症、長期的には胃がんリスクの上昇が報告されています。感染経路は完全に解明されていませんが、人から人への経口・経口(口腔内を介する)または経口・糞口ルートが有力で、幼少期の家族内伝播が示唆されています。日本では若年層ほど感染率が低い傾向があります。

ピロリ菌と胃がんの関係

ピロリ菌が長期間にわたり胃粘膜に炎症を起こし続けると、萎縮性胃炎や腸上皮化生などの「前がん状態」が進み、胃がんの発生リスクが高まります。除菌治療により将来の胃がんリスクは低下しますが、既に粘膜変化が進んでいる場合など、リスクがゼロになるわけではありません。そのため、除菌の有無にかかわらず、医師と相談のうえ適切な間隔で内視鏡検査(胃カメラ)などのフォローを継続することが重要です。予防の観点では、禁煙や減塩、適度な飲酒、バランスのよい食事といった生活習慣の見直しも推奨されます。

正常
健康な胃粘膜

慢性炎症
ピロリ感染による炎症

萎縮・腸上皮化生
前がん状態の進展

リスク上昇
胃がん発生リスク

長期の炎症は粘膜の変化を招き、胃がんリスクに関与します(概念図)。

ピロリ菌検査について

受診・相談

検査
UBT / 便中抗原 / 内視鏡等

一次除菌
PPI / P-CAB + AMPC + CAM

4週間以上経過
休薬は指示に従う

除菌判定
UBT 等

一般的な流れの一例です。個別の判断は医師へご相談ください。

検査は大きく「非侵襲的検査(胃カメラ不要)」と「内視鏡を用いる検査」に分けられます。目的(初回診断か除菌後の判定か)、年齢、症状、服薬状況(PPIやP-CABなどの胃薬)によって適した検査法が異なります。

  • 尿素呼気試験(UBT):息を採取して判定する方法で、初回診断・除菌判定の双方に広く用いられます。
  • 便中抗原検査:便に含まれる抗原を調べる方法で、除菌判定にも用いられます。
  • 血清(または尿)抗体検査:過去/現在の感染把握に有用ですが、除菌判定には適しません。
  • 内視鏡下の検査(迅速ウレアーゼ試験[RUT]、病理、培養、核酸増幅法[PCR等]):胃粘膜の状態を直接観察でき、びらん・萎縮・腸上皮化生などの所見把握に有用です。

検査前の注意点として、PPIやP-CABなどの胃酸分泌抑制薬はUBTやRUTに影響して偽陰性の原因になり得ます。実施前の休薬が指示される場合があるため、自己判断での中止は避け、必ず医療機関の指示に従ってください。
除菌判定のタイミングは、治療終了後に少なくとも4週間以上あけてUBTまたは便中抗原検査などで確認するのが一般的です。
保険適用の考え方(概要):日本では、内視鏡で「ピロリ感染胃炎」と診断された場合などに検査・除菌が保険の対象となる取り扱いが整理されています。詳細は医療機関でご確認ください。

ピロリ菌の主な検査法の比較
検査法 主な用途 負担感 結果まで 休薬の目安 備考
尿素呼気試験(UBT) 初回診断/除菌判定 当日〜翌日 PPI/P-CAB等の影響あり(指示に従う) 精度が高く広く使用
便中抗原検査 初回診断/除菌判定 数日 影響は比較的受けにくい 乳幼児にも適応しやすい
血清(尿)抗体検査 過去/現在感染の把握 当日〜翌日 影響は受けにくい 除菌判定には不向き
内視鏡下検査(RUT/病理/培養/PCR等) 初回診断、粘膜所見の評価 当日〜数日 RUTはPPI/P-CAB等の影響あり 萎縮・化生などの所見把握が可能
注:休薬の可否・期間は検査法や内服状況により異なります。自己判断で中断せず、必ず医療機関の指示に従ってください。

ピロリ菌に感染していたら

  • 医師と方針を確認:症状、内視鏡所見、合併症、服薬歴、薬剤アレルギー等を踏まえて、除菌治療の適否やタイミングを相談します。
  • ご家族の検査も検討:家族内伝播が指摘されており、同居家族(特に若年層)の検査を医師と相談のうえ検討します。
  • 生活習慣の見直し:禁煙、減塩、バランスの良い食事、節酒などは胃がん予防に有用です。
  • 除菌後のフォロー:除菌成功後も、既存の粘膜変化の程度に応じて、医師と計画した頻度で内視鏡フォローを継続します。
受診前の注意事項
  • 自己判断で治療を中止しない
  • 休薬の要否は医師の指示に従う
  • 同居家族(特に若年層)の検査を医師と相談して検討
  • 禁煙・減塩・節酒を意識

ピロリ菌の治療方法

治療の基本は、酸分泌抑制薬と抗菌薬を組み合わせる除菌療法です(通常7日間。施設により10〜14日間の設定もあります)。どの治療計画を選択するかは、年齢、既往歴、薬剤耐性、アレルギー、併用薬などを考慮し、医師が個別に判断します。

  • 一次(初回)除菌の標準:PPIまたはP-CAB(ボノプラザン)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)の三剤療法。
  • 二次(再)除菌の標準:一次で用いたCAMをメトロニダゾール(MNZ)へ置換する三剤療法。
  • その他の選択肢:地域の耐性状況や患者背景に応じ、P-CAB+AMPCの二剤などが検討されることがあります(施設判断)。

副作用の例:下痢・軟便、腹部不快感、味覚異常、発疹、薬剤相互作用など。処方どおりの内服を守り、気になる症状があれば早めに医療機関へ相談してください。自己判断での中断や市販薬の追加は避けましょう。

受診前のチェックポイント

  • 検査前の服薬確認:PPI/P-CAB/抗菌薬の影響で検査が不正確になる場合があります。休薬の要否は医師の指示に従ってください。
  • 除菌判定の時期:治療終了後4週間以上あけてUBTまたは便中抗原検査で確認します。
  • 家族内の配慮:同居家族(特に若年層)の検査を医師と相談して検討します。
  • 除菌後のフォロー:リスクはゼロにならないため、医師と計画した定期内視鏡などを継続します。
  • 生活習慣:禁煙・減塩・節酒、バランスの良い食事を意識しましょう。

おわりに

ピロリ菌は、慢性的な胃炎を通じて胃粘膜に変化をもたらし、胃がん発生リスクの上昇に関与します。
尿素呼気試験や便中抗原検査、内視鏡下検査などで感染の有無を確認し、適応があれば除菌治療を行います。
除菌により将来のリスク低減が期待できますが、ゼロにはならないため、医師と相談しながら適切な間隔で内視鏡検査を続けることが重要です。
あわせて、禁煙・減塩・節酒など生活習慣の見直しも有用です。
検査や治療、フォローの進め方は、年齢や既往歴、内服薬、アレルギーなどを踏まえて医師が個別に判断します。

出典:

注記:本ページの内容は一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の診断・治療、検査や薬の可否、保険適用の扱い等は、必ず医師または専門機関にご相談のうえご判断ください。体調不良や緊急の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。

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